創作とかに使えそうな世界を驚かせた「偽書」の魅力
偽書とはそもそもどんなものなのか?
読んで字のごとく「偽物の書」ということになります。
歴史においても様々な場面でこの偽書は存在していました。
今回紹介する偽書は大きく3つのカテゴリーに分類わけが出来ます。
- 政治的意味合いを持ったもの
- 詐欺・権威付けのために作られたもの
- 趣味・芸術として作られたもの
ただし、創作の時の意図とどのように使用されたのかは別の問題です。
例えば趣味で作った「作品」が結果的に政治利用された可能性もあるからです。
今回は国内・国外問わず「偽書認定」されている書籍をご紹介。
ただし、現在の研究で偽書認定されていることにご注意ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/偽書
歴史に存在した世界の魅力的な偽書集
シオン賢者の議定書
「ユダヤ議定書」「シオンのプロトコール」「ユダヤの長老達のプロトコル」とも呼ばれる偽書で、史上最悪の偽書の異名を持つ書籍です。
典型的な「政治的意味合いを持った偽書」で、ユダヤ人を貶める内容になっています。
内容としてはユダヤ人の権威ある長老たちが世界征服を行うために会議を行い、その会議の際に作られた議事録という体をとっています。
1890年代末から1900年代初めにかけてロシア秘密警察が作成、ロシア革命と共に世界に広まったものとされています。
その内容はナチスのユダヤ人虐殺「ホロコースト」などにも強い影響を与えたとされ、史上最悪の偽書と呼ばれることがあります。
特徴
- ナチスのホロコーストに影響を及ぼしたと言われている
- ユダヤ人が世界征服を行うために開いた会議の議事録とされる
- 現在ではユダヤ人を貶めるために作られた偽書とされている
この書籍はドイツの小説家ヘルマン・ゲドシェが執筆した「Biarritz」を元ネタに大幅に加筆されたものだとされており、ロシア秘密警察が作成した可能性が高いと言われています。
シオン賢者の議定書が作られた当時のロシアは国内への批判が高まっており、そのスケープゴートとして作られたという説です。
ただし、この説は有力と言われているだけで本当の出処はまだわかっていません。
http://ja.wikipedia.org/wiki/シオン賢者の議定書
田中上奏文
昭和初期にアメリカ合衆国で、発表された文章で「田中メモリアル」「田中メモランダム」「田中覚書」とも呼ばれる偽書です。
政治的意味合いを持った偽書で第26代内閣総理大臣田中義一が1927年に昭和天皇に極秘に行った上奏文という名目で発表されました。
中国侵略・世界征服の手がかりとして満蒙(満州・蒙古)を征服する手順が書かれている内容で、その性質から反日プロパガンダに利用されてきました。
特徴
- 中国・世界征服を行うための手順が書かれている
- 総理大臣が極秘に昭和天皇に上奏した内容だと言われている
- 偽書認定していない国や研究者も存在している
誰が作成したのかは不明で未だに意見がわかれているようです。
ちなみに、日本語の「原文」は発見されておらず、中国語・英語など翻訳されたもののみ確認されています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/田中上奏文
全ての教皇に関する大司教聖マラキの預言
12世紀北アイルランドの都市アーマーの大司教聖マラキが行った、歴代ローマ教皇に関する予言をまとめたものとされています。
1143年に就任した165代ローマ教皇ケレスティヌス2世以降のローマ教皇の預言が書かれており、過去に本物か偽物かを巡り論争が行われたそうです。
現在では、1590年のコンクラーヴェにあわせて偽作されたとするのが定説となっています。
政治的・権威付けのために作られたものと判断していいと思われます。
特徴
- 歴代ローマ教皇に関する予言が書かれている
- 1590年のコンクラーヴェ向けに作られた偽書とされている
- 終末論や陰謀論の根拠として創作文などで扱われる場合がある
製作者は不明となっていますが、枢機卿ジロラモ・シモンチェッリを教皇にするために作られたものされています。
預言では111番目の教皇までしか予言されておらず、終末論などと絡めてオカルト的な評価を受ける場合があります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/全ての教皇に関する大司教聖マラキの預言
コンスタンティヌスの寄進状
8世紀中ごろに偽造された、18世紀に偽作であることが確定した文章です。
ローマ教皇ステファヌス2世もしくはその側近たちが東ローマ帝国からの独立性を主張するために作られたものだと言われています。
政治的な意味合いで作られた偽書ですが、その後の宗教的・国家的問題の解決法の根拠として利用されヨーロッパにもっとも影響を与えた偽書と言っても過言ではないでしょう。
特徴
- ローマ皇帝コンスタンティヌス1世が教皇領を寄進した証拠の文章とされた
- 東ローマ帝国からの独立性を主張するために作られた偽書だとされている
- 15世紀から偽書の論争がはじまり18世紀に偽書認定された
800年のフランク王国カール大帝への戴冠もこの偽書を根拠として行われるなど、大きな影響力を持った偽書でした。
カール大帝は「ヨーロッパの父」の異名を持つ人物なので、戴冠後のカール大帝の足跡などを見る限りコンスタンティヌスの寄進状が与えた影響は非常に大きいものです。
こちらのサイト様で、どのような影響力があったのかわかりやすく解説されています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/コンスタンティヌスの寄進状
コデックス・セラフィニアヌス
上記のサイトで一部、画像を確認出来ます。
この偽書は「趣味・芸術として作られた」面白い書籍です。
イタリアの建築家にして工業デザイナーであるルイジ・セラフィーニが作成を行ったもので1981年に出版されました。
未知の世界の百科事典のような形式をとっており、奇抜な挿絵・解読不能な言語など「ヴォイニッチ手稿」に似た印象を受けます。
特徴
- 解読不能な言語で未知の世界を説明する内容になっている
- デザイナーによって作成された偽書である
- 廉価版を一般人でも簡単に購入が可能である
商業的に作られた一種の「デザイン集」であり、作者によって976年から1978年の間に30ヵ月掛けて作成が行われたそうです。
現在、真偽が不明な書籍の多くが実はこのような側面(商業的・趣味的)だったりするのではないかと個人的には思います。
まぁ、当時と現在では紙の価値などが違うので単純な「イタズラ目的」で作られたものはなかったと思いますが。
なんとAmazonで購入が可能です。
まとめ
創作とかに使えそうな世界を驚かせた「偽書」いかがだったでしょうか?
偽書と言えば、変則的ですが「あたかも実在するかのように作品内で使用されるもの」があります。
「ノルウェイの森」「1Q84」などで有名な村上春樹さんの処女作「風の歌を聴け」の中ではデレク・ハートフィールドという人物が紹介されています。
冒険児ウォルドシリーズの作者として主人公が影響を受けた作家とされています。
しかし、この人物もこの小説のシリーズもすべてが創作で、小説の演出の一部として設定されたものでした。
未だに図書館では本当に実在する小説家と勘違いした人が「デレク・ハートフィールドの本を読みたい」と図書館司書を困らせているそうです。